追記(2024/01/16)ーー深夜、あるいは魔法の時間
いよいよハーネス東京が「深夜半額」を再開させたので、本コラムにて補足したい。
本サービスの導入については、公式アカウントが投稿するように、入場時間による不公平感を緩和する目的があるようだ。
しかしそれだけではなく、遊び方のバリエーションが拡がることにも期待してよいのではないか。例えば、他店舗からハシゴをしてもよいし、終電で来店して朝まで楽しんでもよいだろう。
そもそもアンダーグラウンドであるとはいえ、お店の原型はBAR だ。そしてBARであれば、夜遊びが好きな人たちは、深夜帯にディープな時間が訪れることを条件反射で想像してしまう。もちろんボラプチュアスのように、敢えて深夜帯に営業しないという戦略もあるが、それは既存店と差別化を図るための例外だろう。
ネットが主流になった現代では分かりにくくなっているが、深夜というのは特別な時間であるように思う。例えば、かつてテレビやラジオの深夜放送は、「真っ当な人間は寝ている」という建前によって、様々な表現が許容されていた。深夜に盛り上がるBARも同様に、夜の深い時間であればこそのコミュニケーションがあったのだ。どうやら真夜中という時間は、私たちに特別な力をもたらしてくれるらしい。深夜は魔法の時間なのだ。
ところで、ここのところのアンダーグランド界隈といえば、入場料金を既存店の半額とする代わりに、店内で関係を完結させず、当事者合意の下、店外で関係を発展させるという形態のお店がブームとなっている。
このような形態は、オープンかつ無料のSNSと、クローズドかつ有料の既存アンダーグラウンドの中間に位置するお店であると思う。
SNSによって社会が覆い尽くされ、計算可能な領域が拡張し、深夜と昼間の違いだけでなく、日常と非日常までもフラットにしてしまった現代では、このような新しいスタイルのお店が台頭することは認めざるを得ないだろう。
しかしハーネス東京が理想とする空間は、そのようなものとは無縁である。そのことはここで説明するまでもなく、あのパープルアゲートのカウンターに座った瞬間に理解できることだろう。
そのハーネス東京が「深夜半額」という大胆な施策に打って出たのであれば、深夜に魔法の時間が到来することを期待せずにはいられない。
どうか魔法の力によって、日常を超越する特別な空間が在り続けることを、そして魔法の時間が、私たちに束の間の解放を与えてくれることをーー
SNSのような非現実の日常ではなく、アンダーグラウンドという現実の非日常に奇跡の瞬間が起きることを信じて。
今年初めのコラムはそのような祈りと共にはじまる。
【了】
追記(2023/11/30)
ハーネス東京が深夜半額のキャンペーンを展開した際のコラムがランキングに浮上してきたので、補足説明のために追記したい。
まず期間限定で導入された当該キャンペーンは現在では終了している。
半額キャンペーンを導入した際の状況を振り返ってみと、コロナ渦にオープンしたハーネス東京は当初、平日深夜に営業を行っていなかったという事実に驚愕せざるを得ない。
コロナにより行動が制約されていたことと、深夜の上野における人通りの少なさを考えれば、妥当な判断であったように思う。
コロナによる制約が緩和されて以降は、深夜帯の潜在的なニーズも強いと判断したことで、平日深夜の料金を半額にするという大胆な施策を採用したものと推測できる。
深夜半額のキャンペーンは所期の目的を達成したことから終了したが、その後も夜の部で定期的に入場料のディスカウントを行うなど状況の変化に応じた迅速な施策は続いているようである。
上野・御徒町エリアの激戦化
上野・御徒町エリアがバルカン半島の様相を呈している。
「界隈の弾薬庫」と喩えられるほど、同エリアでの競争が激化しているからだ。
いままでハプニングバーのメッカである新宿に次ぐ地域は、錦糸町と上野・御徒町であったが、錦糸町での2店同時閉店と大型SMバーの進出による多様化を背景に、上野・御徒町に関心がここにきて高まってきたように思う。
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【錦糸町転生】ハプニングからフェティッシュへ
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【錦糸町】変態バーから大箱SMバーまでの20年史
群雄割拠の時代に突入するなか、オープン半年を控えたハーネス東京は、9月15日昼に「0.5周年」イベントの詳細と、料金システムのアップデートをアナウンスした。当初は9月14日夜に公表する予定であったが、協議が難航し、実に9時間にも及ぶ話し合いの結果、翌日の昼にツイートで発表する運びとなったのである。
今回は後述する「深夜料金半額」を主軸に同店の戦略を分析するととも、同エリアの抱える問題を新宿と比較して論考していきたい。
「深夜半額」という戦略
ここではハーネス東京の発表した4つのアップデートと0.5周年記念イベントについて分析する。
まずは、今回の目玉となる「深夜半額」である。
大胆かつインパクトのあるプロモーションであるし、他店への影響も少なくないように思う。
まずは本戦略の意図と背景について考察していきたい。
上野・御徒町エリアの地理的な特性についていえば、同エリアは深夜に人出が少ないということだ。そのため、新宿や渋谷とは異なり、終電を過ぎた時間帯での新規来店客が圧倒的に少ないのである。
一方で狭いエリアにも関わらず店舗数は多い。
- ハーネス東京
- パピヨン
- ラスク
- ハニートラップ
- Bar S
と5店舗がひしめき合っているのだ。
つまり、上野は
- 深夜帯に人出が少ない
- 店舗数が多い
という2つの構造的特徴を持っているのである。
この2つの構造的な特徴がもたらす帰結は何であろうか。
それは女性が他店に自由に移動できる一方、渋谷や新宿のように新規来店者がいないため、店内が盛り上がっていないと女性が他店に流れて、男性客だけになるリスクが極めて高いということだ。
つまり、新宿や渋谷では他店に女性が流れることがあっても、新規女性客の来店が望めるが、上野の場合は上記の構造的な問題により、終電後に男性だけになりやすいということだ。
また男性の場合、終電後に全額を支払ってエリア内の他店に移動するのは経済的な負担が大きい。
しかしその際に取りうる行動が極めて興味深いのだ。
タクシーで錦糸町のもぐらやorcaグループ店に移動するケースが見られるのである。
上野・錦糸町間の深夜がタクシー料金は、2,500円程度だ。
たとえば、タクシーで週末深夜にもぐらに店を変えた場合の費用は7,500円と、他店のハプニンブバーの半額程度なのである。
朝まで遊べる貴重な週末を男性客だけのハプニンブバーで過ごすのか、7,500円を支払って、知り合いもいて、店内も盛り上がっているノンハプバーもぐらやその他の店に移動して気分転換を図るのか。
上野から錦糸町へのタクシー移動は現実的な行動であるといえるだろう。
そう考えると、ハーネス東京の深夜料金(平日6,500円/週末8,000円)は、極めて戦略的価値の高い価格設定であることが判る。
もっとも、この深夜料金は以前パピヨンでも採用されていたのだが、現在は廃止されている。
ハーネス東京が深夜料金を導入する数日前に復活の声もあったようだが、「せん」の一言で一蹴している。
もっとも状況次第では再検討の余地もありうるのではないか。
夜の部を1時間延長
夜の部スタートの1時間前倒しも発表された。
これにより平日で終電を意識した滞在時間が、4時間程度から5時間に延長される。この1時間の価値は相当に大きいだろう。
しかし注目すべきポイントはそれだけではない、昼の部とクロスオーバーする時間帯が設置されたということだ。
これは他の店舗では比較的多く導入されているシステムであるが、18~19時は昼の部と重複する時間帯になる。
18時台は夜の部のスタートに合わせて来店する女性も多いため、延長するかどうかの判断が悩ましいところであるが、それもこの遊びの妙味であるといえる。
みんなで広げよう友達の輪
友人紹介キャンペーンも導入される。男性が紹介した場合は半額券がプレゼントされるというのは大盤振る舞いである。ノンハプバーもぐらや界隈バーで知り合って、ハーネス東京を紹介するというケースも増えるのではないだろうか。もっともこの手のお店を人に紹介するのは相当の労力を要するので、それに見合った対価が支払われるという考え方もできる。
新規顧客層を獲得に向けた戦略は友達紹介だけではない。
毎週月曜日22時スタートとのスペースで発表されるキーワードを新規受付時に伝えることで、4,000円OFFのキャンぺーンも実施されるのである。
リスナーが500人を超える人気プログラムであるだけに効果は大きいだろう。
Half Year Anniversary
9月30日と10月1日は、ハーネス東京のオープン半年を祝って「0.5周年」イベントが開催される。
オープン半年での盛大パーティは前代未聞ではないだろうか。
総額は明らかではないがビンゴ大会が企画されているようだ。
もっとも参加条件は、9月30日21時迄に入店、10月1日20時迄に入店と条件があるようだが、これはビンゴのみ参加する女性客の防止、いわばハーネス東京から男性客への配慮なのだろう。
ただ肉フェスやリーベゼーレのイベント内容を見る限り、ここまでの条件を設定するということは、相当な自信の表れでもあると想像できる。
ライバルは錦糸町エリア
このように4つのアップデートと1つのイベントを通じて、ハーネス東京の戦略と上野・御徒町エリアの課題を分析してきたが、話題性が高いのは、週末も含めた「深夜半額」であることは間違いないだろう。競争を煽るわけではないが、同エリア他店の動向も期待されるところだ。
(深夜半額、夜の部スタート1時間前倒し、友達紹介の3つについては年内のトライアル実施)
もっとも、今回の論考では、上野・御徒町が持つ構造的な特性により、ライバルはエリア内の他店ではなく、錦糸町のノンハプバーもぐらや「界隈バー」であることも明らかになった。ハーネス東京の新戦略が刺激となって、上野・御徒町エリアが盛り上がることを願いたい。
新宿の陰に隠れがちな上野・御徒町と錦糸町であるが、大きな変革の波が押し寄せていることを強調し、コラムの締めくくりとしたい。
【了】
【更新履歴】
2022/09/1x公開