【ブリスアウト x ハーネス東京】伝統と革新のコラボレーション

奇蹟のコラボ

耳を疑うような企画が明らかになった。

昨晩のスペース配信において、ハーネス東京がブリスアウトとコラボでキャンペーンを展開することを発表したのである。

ブリスアウトといえば、2011年に新宿でオープンした伝統的なスタイルの名店、一方のハーネス東京は2022年に上野でオープンし、数々の革新的な取り組みによって、コロナ渦を乗り越えた比較的新しいお店として広く知られている。

「伝統」と「革新」――

一見して、油と水のように混じり合うはずのない、2つの店はなぜコラボレーションをするに至ったのだろうか。
今回のコラムではその謎に迫る。

まずは本論に入る前に本稿の構成について明らかにしよう。

本稿では最初に新宿ブリスアウトとハーネス東京が共同で実施するキャンペーンについて概説し、そのうえで次節では新宿ブリスアウトがこれまで歩んできた道のりを辿ることで、当該コラボレーションの意義について検討する。
最終節では締めくくりとして、界隈の近況を考察しつつ、当該コラボレーションが界隈に与える影響について考察することとしたい。

なお本論についてはスペース配信での内容をベースとしてこれまでの調査結果に基づいて議論を展開する。内容に不備があった際は指摘いただければ幸いである。

互恵的キャンペーン

「Mutual Trial Campaign」と題されたコラボキャンペーンは、一方の店の会員が他方の店に半額で入場できるという趣旨の企画である。

言葉どおり、双方(Mutual)のお店を試す(Trial)ことができるキャンペーン(Campaign)であるが、Mutualの語源に関する記述が、私には興味深く思えた。

[1477. <中期フランス語 mutuel<ラテン語 mūtu(us)相互の,互いに交換した,互恵的な(mūtre「交換する」より;→MUTATE)+中期フランス語-el -AL1(<ラテン語-lis)]

小学館 ランダムハウス英和大辞典

上記のとおり、Mutualという言葉には、相互に利益を共有する「互恵的」という意味がもともと存在していたのである。

そう考えると、今回のキャンペーンは、お互いのお店やお客に利益を分け与えることを目的としたものであると考えられるのだ。

それではどのように利益を分配するのだろうか。

詳細については各店舗のWebサイトに譲るとして、キャンペーンの概要を取り上げていきたい。

おおまかに解説すると今回のキャンペーンは、ハーネス東京に来店するとブリスアウトの入場料半額、ブリスアウトに来店するとハーネス東京の入場料半額券を受け取れるというものだ。この入場料半額券の使用によって、3時間滞在することができ、以降は延長料金を支払うことよって、そのままお店に残れるのである。

特筆すべきは、週末やイベントなど時間に関係なく、入場料半額券を使用できる点ではないだろうか。各店舗で週末で一番人気のあるイベントの最も盛り上がる時間帯にお店の様子を伺えるのだ。

このキャンペーンは、今まで他店に行くのに二の足を踏んでいたユーザーにとって、遊びの幅を広げる絶好の機会になることだろう。

あらかじめ記しておくが、ブリスアウトとハーネス東京の間には資本関係は存在せず、いわゆるグループ内割引ではない。

あくまで独立した店である双方のコラボレーションによって、他店の入場料が半額になるという、互恵のために実現した画期的な試みであるのだ。

意外な接点

ところで、今回のコラボはどのような経緯で実現したのだろうか。

スペース配信によれば、ハーネス東京のオーナーは、店をオープンする前はユーザーとしてブリスアウトに通っており、ブリスアウトを自身のアングラキャリアの原点に位置するお店であると語る。さらに同店オーナーについては、アンダーグラウンドについて一から教授してもらった経緯もあり師と仰ぐだけでなく、13年も店を営業していることから経営者としても憧れの存在であるという。

ところで4月1日にオープン2年目を迎えたハーネス東京は、会員数はが2千人を超えているとのこと。
これは以前に「魔の2022年組」と私が形容したように、コロナ渦にオープンした店の大半は閉店を余儀なくされている状況を考えれば、奇蹟と言っていいほどの成功である。

【祝辞】ハーネス東京のオープン1周年に寄せて

もっともハーネス東京に課題がないわけでもない。それはコロナ以降にオープンした店にも共通して指摘であることではあるが、コロナによる外出制限などでアンダーグラウンドの住民が大幅に入れ変わったことで、ディープな世界観を継承することが難しくなってしまったのである。
端的にいえば、コロナを契機とした大幅な世代交代により、アンダーグラウンドがどのようなものであるのかを共有することが出来なくなってしまったと考えられるのだ。つまりコロナとの3年にも渡る闘いは、アンダーグラウンドの世界にもキャズム(深い溝)を生み出すことになってしまったのである。

順調にオープン2年目を迎えたハーネス東京の課題も、より多くの人たちにアンダーグラウンドを楽しんでもらうという当初の目的を達成したことにより、さらにディープに楽しんでもらうというクオリティの追求へ移行したであろうことは想像に難くない。

上記の課題を解決するため、ハーネス東京のオーナーが相談したのが、ユーザー時代から付き合いのあるブリスアウトのオーナーであったのだ。そのような経緯もあり、今回のコラボはハーネス東京のオーナーがブリスアウトのオーナーに申し入れることで実現したのである。

詳細は後述するが、ブリスアウトは現在ハーネス東京が抱える課題(もっとも界隈全体が抱える構造的な問題でもある1実際のところ、アングラ未経験者中心の来客によって、お店の雰囲気を作れなかった結果、ユーザーが定着せず、次第に集客力も落ちてクローズを余儀なくされるケースも散見されたように思う。)を解決するためのパートナーとしてもっとも適任であるように考えられる。その理由は次節でブリスアウトの歴史を辿ることで明らかにしたい。

ブリスアウトとアンダーグラウンドの歴史

前節ではハーネス東京がブリスアウトとコラボレーションをするに至った経緯を解説し、公判ではハーネス東京にとってブリスアウトが課題解決の最良のパートナーであることについて触れた。

本節ではブリスアウトの歴史を辿って、同店の界隈の位置づけを確認することで、今回のコラボレーションの意義についての議論を深めていきたい。

まず界隈の歴史については、これまでにも「ハプニング全史」というシリーズで、これまでにもアンダーグラウンドの始原を探求してきた。ここのところ同コラムの掲載は停滞しているが、それは表向きであって、実際のところは水面下でのリサーチが進展しているのである。最新の研究成果の報告も交えながら、ブリスアウトの歴史について解説していきたい。

まず界隈の歴史を探求するうえで、貴重な一次史料として参照しているのが、以下のブログである。

このブログの内容を補完する形でゲシヒテ2歴史を表すhistoryという語は,historia(探究)というギリシア語に由来している。歴史が単に人間世界で生起する諸事件の連続や総和なのではなく,その諸事件の意味連関を探究する人間の作業でもあるということを,その語の由来が示している。ドイツ語では,その前者をGeschichte,後者をHistorieと別の言葉で表示している。(世界大百科事典)としてのブリスアウトについて詳述したい。

端的に言えば、「ブリスアウトはアンダーグラウンドの歴史そのものであり、その正統な継承者である。」

そのことを証明するために、上記ブログを参照しながら界隈の歴史を紐解いてみたい。

意外にも思われるかもしれないが、上記ブログにも記載があるとおり、現在のオリーブ21の前身にあたるオリーブという店舗が1990年代に存在していたのである。オリーブをルーツとして誕生したのが、カップル喫茶としてスタートし、店名、所在地、形態を変えながら現在も営業を続け、最も長い歴史を持つピュアティワン。

【何度でも新しく生まれる】新宿ピュアティワンの研究

オリーブをルーツに持つもう一つのお店がかつて存在したグランブルーであり、ブリスアウトはその後継者であるのだ。

【ハプバー考古学#03】Le Grand Bleu 〜深く潜る

詳細な時系列は調査中であるが、1990年代にオープンしたオリーブから派生する形で、1999年10月にカップル喫茶としてピュアティが新宿で営業をはじめる。同じくオリーブをルーツに持つグランブルーは、同時期の2000年5月に新宿でオープンし2006年4月まで営業を続ける。グランブルーのクローズ後にオーナーが後継店として始めたのが、移転前のブリスアウトの場所に所在していたシルクという店であり、2007年1月から2011年(クローズ日は調査中)まで営業を続けていたのである。そして2011年10月にはオーナーが変わって、ブリスアウトがオープンし、現在も営業を続けているのだ。

前出のブログでは明示されず、示唆のレベルに留まっているが、オリーブのユーザーが現在のブリスアウトのオーナーを務めているのである。そう考えると、ブリスアウトはアンダーグラウンドの歴史そのものであり、正統な後継者であることに疑う余地はないと言えよう。

伝統と革新の交流

前節で論じたとおり、ブリスアウトはアンダーグラウンドの伝統を体現する店である。そのことを踏まえると、革新的なアプローチでコロナ渦のサバイバーとなったハーネス東京が、更になるステップとしてディープな空間を提供するために、アンダーグラウンドを継承するブリスアウトをリファレンスにし、コラボレーションを申し入れるのは自然な成り行きであったとも考えられる。

アンダーグラウンドのファーストユーザーが多いとされるハーネス東京のユーザーがブリスアウトを体験するのは、遊びの幅を広げるチャンスでもあるし、店の活性化も期待できることだろう。

もっとも、ブリスアウトにとっても、同店のユーザーがハーネス東京を体験することで、これまでに築き上げてきたアンダーグラウンドの世界観を墨守しながらも、新しい時代の流れを取り入れる機会ともなるだろう。

このように時代の潮流を意識しながらも、原点回帰を目指す姿勢は、アンダーグラウンド界隈全体のトレンドでもある。今やアンダーグラウンドの原点ともいえるピュアティワンも、ワンデーショップという仕組みを採用し、通常の営業と併せて、営業形態の異なるお店も複数営業する形態を取るなど、店本来のコンセプトを維持しつつ新しい時代に対応しているのだ。

ブリスアウトとハーネス東京のコラボレーションは、伝統に回帰しながらも新しい時代に対応するという、ポストコロナ以降の流れをもっとも象徴的に示すイベントになりそうである。

ブリスアウトとハーネス東京の画期的な試みが、アンダーグラウンド界隈の発展につながることを願って止まない。【了】

2023/5/30公開

  • 1
    実際のところ、アングラ未経験者中心の来客によって、お店の雰囲気を作れなかった結果、ユーザーが定着せず、次第に集客力も落ちてクローズを余儀なくされるケースも散見されたように思う。
  • 2
    歴史を表すhistoryという語は,historia(探究)というギリシア語に由来している。歴史が単に人間世界で生起する諸事件の連続や総和なのではなく,その諸事件の意味連関を探究する人間の作業でもあるということを,その語の由来が示している。ドイツ語では,その前者をGeschichte,後者をHistorieと別の言葉で表示している。(世界大百科事典)

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