はじめに
9月6日、ハーネス東京がWebサイトを半年足らずでリニューアルした。
当初は「なぜハーネス東京は半年も経たずにWebサイトを更新したのか」を解き明かすことをがテーマであった。
しかしながら、ノンハプバーもぐらのWebサイトもいつの間にか新しくなっていることに気づき急遽テーマを変更した。
両者を比較することで、Webサイトのあり方を論じようと思い直したのである。
今回のコラムは、Webサイトを補助線にハーネス東京ともぐらを平行して論じる「Webサイト表象論」とでもいうべき、私なりの新たな試みにお付き合いいただければ幸いである。
ハーネス東京、半年でWebサイトリニューアル
改めて冒頭文を繰り返そう。
ハーネス東京は9月6日にWebサイトをリニューアルした。
以前のWebサイトにも内装の写真は掲載されていたし、視認性や操作性もそう悪くなかったはずである。
デザインやギャラリー、文字や配置、そして何より操作性を改善しましたので、かなり扱い易くなってると思いますよ😊
— HARNES TOKYO(ハーネス東京)@公式 (@HarnesTokyo) September 5, 2022
にもかかわらず、公開して半年も経たないWebサイトを一新したのはなぜだろうか?
Webサイトと実店舗のイメージを共通の体験として一体化することが目的であったというのが、私なりの結論である。
平たく言えば、Webサイトと実際の店舗の印象を同じものにしたかったということである。
例えば、バーカウンターの天板はパープルアゲート(紫メノウ)という、パワーストーンにも用いられる希少な鉱物を採用しているが、これを撮影して素材化し、Webサイトのトップページにあるメニューボタンにも使用している。このような現実のマテリアルをWebと店舗で共通化するという手法は、内装にこだわったハーネス東京だからこそ実現できたといえよう。
つまりハーネス東京のWebサイトには嘘が一切ないということだ
それはイベントページのアイキャッチ画像を除けば、すべて現実に存在する店舗の内装をWebのマテリアルとして使用しているということである。
つまり、Webサイトをリニューアルした意図は、Webサイトと実店舗のUX(ユーザエクスペリエンス)を同一化することにあったといえる。
話はわき道にそれるが、以前にもコラムで言及したとおり、ハーネス東京は空間デザインによってコミュニティデザインの実現を図ったという点が斬新であった。
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【神は細部に宿る】鴨葱ラーメンとハーネス東京
それだけではない。ハーネス東京へは店に通うにつれて、今まで気が付かなかった意図が明らかになる瞬間がある。
例えば、バーカウンターの天板はパープルアゲートを垂直にスライスしたものを使用しているが、ボックス席テーブルでは同じ素材を水平にスライスし漂泊して黒くしたものを使用している。同一マテリアルを使いながらも加工を施しているのである。
これが意味するところは、バーカウンターとボックス席では異なったコミュニケーションをとって欲しいという空間デザイナーのメッセージであるように思える。もっとも、マテリアルは同じパープルアゲートであるから、ハーネス東京のコードには従って欲しいというメッセージも暗示しているのだ。
ここまでくれば、Webサイトのメニューボタンの背景にパープルアゲートを使用した理由も改めて説明する必要はないだろう。
コンセプトの言語化
ノンハプバーもぐら(以下「もぐら」)のWebサイトが更新されていることに気づいたのは移転直後である。
今まではWebサイトを見る機会もあまりなかったので、移転が契機になったかどうかはわからない。
しかし、もぐらにしか実現しえないWebサイトであるように思えた。
ノンハプバーという言葉は業態ではなく、もぐらのみが冠することを許された店名そのものであると私は論じてきた。
つまりもぐらの実態はコンセプトである。
極言すれば、内装がどうであっても、スタッフとお客が入れ替わっても、オーナーがノンハプバーというコンセプトさえ掲げれば、「もぐら」は成立する。
不思議なことに、他店がノンハプバーという言葉を使ってもそれはフェイクに過ぎないと感じさせるだけのブランディングがもぐらにはある。
しかし問題がある。
もぐらがターゲットにするハプニンブバー自体を知らない初心者には、ノンハプバーという概念は到底理解しようがないことだ。
その問題を解決したのがリニューアルしたWebサイトであるように思う。
ノンハプバーという概念の言語化を成功しているし、初心者の不安を取り除くコンテンツにもなっている。
Webサイト表象論とは
このようにハーネス東京ともぐらのWebサイトは現実の店舗を表象している。
ハーネス東京はテキストを極力抑えて、メインの店内写真を素材として使用することで、実店舗とWebサイトの体験を共通化した。
一方もぐらは、コンセプトを言語化したテキストが主体として、初心者に訴求力のあるコンテンツを提供している。
Webサイトの画像は旧店舗のものであるが、それは問題にならないだろう。
むしろ、新店舗のほうが広くて設備も充実しているので、初来店者にとってはポジティブなサプライズだ。
このようにWebサイトを論じるにおいて、対称的なハーネス東京ともぐらであるが、ほかのお店には見られない共通点がある。
それはイベント情報をトップページに載せていないということだ。
それはこれから来店を検討している人にとって重要なのはイベントではなく店の雰囲気であることを、両店は熟知しているからである。
しかしそれだけではない。集客にイベントに頼らなくてもいい、他店では絶対に真似をすることができない強みを両店ともが持っているからだ。
ハーネス東京は内装に――
もぐらはコンセプトに――
ほとんどのお店の場合、制作会社に発注して、実体の店舗とはまるで関係ない商用の素材集を使用し、誇張して撮影された内装の写真が掲載されている程度のWebサイトがほとんどだろう。
その意味において、ハーネス東京ともぐらのWebサイトは方向性は異なるが、他店とは全く次元が違うのである。
すべて現実に存在するものをWebサイトに使用している。両店にあるには、それがテキストとして表現されるか、写真として表現されるかの差異に過ぎない。
ここで興味深いツイートを引用しよう。
ワードプレスだと限界があってさ😊
— HARNES TOKYO(ハーネス東京)@公式 (@HarnesTokyo) September 5, 2022
昔のようなフラッシュバリバリのホームページなら個性出せるんだけどね🤣
HTMLタグを直接コーディングしていた時代から、オーサリングツールにより開発を経て、Flashの導入によるメディア表現としてのWebが成立していた時代がかつてはあった。
資本の論理によりFlashが淘汰されて以降は、Wordpressでコンテンツを作成した後は、Googleでの検索率が向上するようSEO対策がメインとなる。Webは表現の手段ではなく資本の一部となった。
もはや画一化されたWebサイトしか作成できないのである。
そのような時代にあって、突出した店舗の独自性によりWordpressを使ってもなおオリジナリティの高いWebサイトを構築した、ハーネス東京ともぐらの両店は驚嘆という他ない。
資本の論理にあらがうようなアティチュードさえ感じられる。
Webサイトは店の表象する、ときに資本の論理に抗い、独自のプレゼンスを誇示しながら――
Tipsからコンテンツを移転するにあたり、ドメインを取得してレンタルサーバを契約し、WordPressでWebサイトを構築した私には、強いリアリティを持ってそのようなことが感じられたのである。
【了】
【更新履歴】
2022/09/18公開