料金改定という名のリバランス(2023/05/08追記)
スカーレット東京はGW明けの5/8に料金改定を実施した。
他店によくみられるような、いわゆる「お酒の仕入れ価格高騰などによる一律の値上げ」ではないところが注目すべきポイントである。
同店はこれまでにも、平日イベントを定期的に見直すなどして、ファインチューニングを行ってきたが、今回の料金改定もそのような色彩が強いものになったと思う。
つまり収益構造を改善するのではなく、当初の店のコンセプトを実現させるために、集客の分布を再調整(リバランス)することに意図があると考えられるのである。
今回のコラムでは、具体的な料金改定の中身について分析し、同店の戦略を明らかにしていきたい。
まずお店の入場料を示すベンチマークになりるう、週末の単独男性の料金は1万5千円と据え置きのままであるが、前日書き込み割引の適用額が2,000円から1,000円に減少しており、実質的には1,000円の値上げとなった。しかしその分、平日夜の料金も1,000円値下げとなっているのだ。(もっとも前日書き込み2,000円割引が、当日来店の足かせになっていた可能性もあるだろう)
おそらくではあるが、週末に男性客が集中する傾向があったのを是正するために、平日と週末の価格差を調整したのではないだろうか。
続いて注目すべきはカップル料金の改定である。こちらも値上げとなっているが、その代わりに1部から2部への延長料金が廃止され、終日料金となった。これにより1部と2部の切り替えのタイミングで入店しても延長料金を意識する必要がなくなり、カップルにとっては、ロングステイしやすい環境が整ったと考えられる。
こちらについては、カップルの滞在時間を延長するという課題があり、これを実現するための措置であると推測できる。
もちろんこれらの分析は私の憶測に過ぎないが、週末夜と平日夜の入店数平坦化、カップルの滞在時間延長というのが、経営課題であったように考えられるのである。
そうはいっても、データを取りながらこの価格体系で数か月営業し、状況によっては更にシステムを改定することも十分に考えられるだろう。
そのような機動性の高さこそが、スカーレット東京の強みなのである。
パーティー主義(2023/04/02追記)
スカーレット東京がイベントらしいイベントを企画しない状況について、差別化のため「脱イベント化」と先述したが、どうやらそれは正確な表現ではないようだ。
それは4月15日に初のパーティを開催することを発表したからである。
「イベント」ではなくあくまで「パーティ」であるところが、スカーレット東京らしいと私には思える。
なぜだろうか。
スカーレット東京は同伴喫茶の時代にまで遡行ししつつも、新しい時代のアンダーグラウンドを模索している
そうであれば、当然のことながらカップル喫茶の流儀についても踏まえた営業スタイルであるはずだ。
カップル喫茶は定期的に普段の営業とは違ったパーティを開き、お店の常連が一堂に会する機会を設けていたのである。
そこでは、普段とは異なった雰囲気を演出するためにオードブルなどが用意されていたのだ。
上記の経緯を踏まえると、スカーレット東京が目指すのも、パーティの復活であると考察するのが自然だ。
ところで、イベントとパーティは異なる。
前者は新規ユーザーを獲得するためのプロモーションという色彩が強く、お店によっては、様々な企画のイベントを毎週末ごとに開催する。
一方、後者はよりディープに遊ぶために定期的に開催される、常連のための集いである。
ここ最近の動向としては、イベントが中心になり、特定のお店に通うのではなく、イベント単位で店を徘徊する傾向が強まってきたように思う。
そのため、掲示板の書き込み状況を観察し、盛り上がっているイベントのお店に当日来店するというような風潮が多くみられるのである。
私はこのような現象を「脱ホーム化」、「イベント中心主義」と呼称している。
しかし、スカーレット東京はこのような流れに掉さすものである。
料金設定やキャンペーンなどは最新動向をフォローしつつも、お店が嗜好する遊び方は古風な界隈の流儀に倣うものであるからだ。
つまり差別化のための「脱イベント化」ではなく、コンセプトを墨守する為、原点回帰としての「パーティ主義」なのである。
また「単独開放」へピボットしてから1ヵ月程度で、パーティを開催できるというのは同店の自信の表れでもあるように思う。
週末の盛り上がりや私に寄せられる同店の評価の高さを考慮すれば、それも無理はないだろう。
ともあれ、初のパーティが盛会となることを期待したい。
知性と変態のマリアージュ
「スタッフの全員が変態らしい」
スカーレット東京に関するその情報に、私は耳を疑った。
スカーレット東京といえば、「カップル限定」から「単独開放」へピボット(方針展開)するとともに、
綿密なリサーチと精緻なキャンペーン展開によって、営業体制を大幅にアップデートし、急速に集客力を高めているからだ。
リサーチやコンサルティングなど、何らかのプロフェッショナル・ファームに在籍する者が、同店のブレーンを務めているに違いない。
そのように判断せざるを得ないほど、高いインテリジェンスを兼ね備えたスタッフで構成されている店であると、私は考えていたのである。
しかしながら、戦略性の高いキャンペーンを企画する知性と、日常生活では隠匿せざるを得ないほどの変態性は、アンダーグラウンドの世界においては、けっして相容れないわけではない。
知性と変態のマリアージュ——
リニューアルオープン1か月での同店の人気ぶりを考えれば、もはや何の説明も要らないだろう。
本論においては、スカーレット東京の戦略的なキャンペーンを子細に検討することで、アンダーグラウンド業界の展望について議論を展開したい。
「界隈の黒船」、歌舞伎町に来航
歌舞伎町に黒船が来航している、スカーレット東京という界隈の黒船が…
そのように形容できるほど、スカーレット東京の存在は歌舞伎町の界隈にとって脅威的である。
それは立地条件や建物のほかに、料金体系やキャンペーンや店内サービスに至るまで全てがユーザーにとって魅力的であるのだ。
結論めいたことを先に記せば、今後オープンするお店は特別な強みがない限りは、スカーレット東京より高い料金で営業を続けるのは困難になるだろう。
スカーレット東京のオープンは、江戸時代末期に浦賀に来航したペリー率いる艦隊、つまりの黒船のような衝撃である。
私が聞くところによれば、スカーレット東京のオープンによって、客足が衰えた店舗も多いようである。
ペリーが江戸幕府に開国を迫り、明治時代への扉を開いたように、スカーレット東京は界隈に変革を促しているかのように思えるのだ。
そのような視点を踏まえ、次節では料金体系について、新宿で営業している数店舗と比較することで分析したい。
最大規模 x 生ビール = ハイコストパフォーマンス
新宿で営業する主な店舗の週末夜料金(2023/3/21時点)は以下のとおりである。
リトリート(15,000円)
カラーズ(14,000円)
440(11,000円)
アラベスク(13,000円)
アグリアブルー(15,000円)
ブリスアウト(14,000円)
一方のスカーレット東京は、一見すると15,000円とリトリートやアグリアブルーのような高価格帯であるものの、
前日にBBSへ書き込むことによって2,000円割引を適用すれば13,000円となる。
特別に良心的な440を除けば、13,000円という価格設定は、充分に競争力を持つものだ。
Webサイトに15,000円と表記すれば、リトリートやアグリアブルーのような高級感をアピールできるし、2,000円がディスカウントにより、男性が前日に掲示板へ書き込むように誘導すれば、集客数をアピールできるほか、女性の勧誘にも繋がりうる。実にスマートの手法であるように思う。
また、スカーレット東京の場合、歌舞伎町で最も店舗規模が大きいことに加えて、他店では実施していない「生ビール付きのフリードリンク」も実施していることから、同価格の単店に比べて、圧倒的にコストパフォーマンスは高い印象を受ける。
巧みなQUOカード戦略
女性の来店を促すため、女性の前日での掲示板への来店予告による、QUOカード提供も極めて巧みである。
QUOカードの金額を他店よりも1,000円多い、2,000円に設定してインパクトを与えるだけでなく、Webサイトには以下の注意書きがあるからだ。
単独女性様へのQUOカードプレゼントは24時前に入店で滞在時間3時間以上。また、予告なく終了する場合がございます。
同店Webサイトより
2,000円のQUOカードを取得するためにすぐに帰宅する女性が増加することを防ぐために、3時間以上の滞在を義務付けているほか、24時前の入店を条件とすることで、始発待ちのために店に来る女性の増加も抑えているからだ。
さらに興味深いのは、「予告なく終了する」という表現である。
私の推測に過ぎないが、24時前来店で3時間滞在したとしても、QUOカード目的で、明白に店のコンセプトと相容れない女性に対しては、何らかの理由(カードの在庫がなくなった、あるいは週末のためにカードを残して置く必要があるなど)を付けて、QUOカードを提供しないことを示唆しているように考えられるのだ。
仕事帰りに3時間ほど立ち寄り、無料でお酒を楽しんで、2000円のQUOカードを貰って帰宅する女性が増えた結果、週末営業にもかかわらず、女性の退店に連動して、終電前には男性も含めてお客さんがほとんどいなくなってしまうというリスクも充分に考えらえるため、何らかの対応をお店も考えていると見てよいだろう。
裏を課せば、毎日2,000円のQUOカードを進呈するというのは、それだけ影響が大きいということである。
他店への影響を考えれば、女性に2,000円のQUOカードを提供するイベントを打ち出しても、スカーレット東京が毎日キャンペーンとして実施しているので、以前のような訴求力は発揮されなくなるだろう。
「5時間保障」によるアイドリングストップ
スカーレット東京が打ち出す数々のキャンペーンやサービスのなかで、もっとも革新的なのは「5時間保障」である。
5時間保証とは、最大5時間までの滞在を保証させていただくシステムです。
同店Webサイトより
14~17時のご来店の場合は、延長料金なしで5時間滞在可能です。
たとえば、1部(10時~18時)、2部(18時~29時)というような2部制を採用する場合、想像のとおり、1部と2部の切り替わりタイミングは男性客の入店が極端に少なくなる。
これだと男性客の来店を期待する女性客のニーズが応えることができなくなって女性が退店し、手持ち無沙汰になった1部の男性客も延長せず、店としてアイドリングのような状態が発生してしまうのである。
これだと平日は2部の開始時点でお客さんが誰もいなくなるという事態に発展しかねず、さらにお客さんの定着率を低下させるという悪循環を招きかねないのである。
そしてこの「アイドリング現象」については、構造的な問題であるとして、課題に挙げて取り組み店は存在しなかったのだ。
スカーレット東京が優れているのは、「アイドリング現象」のような今まで見過ごされてきた課題を見いだし、「5時間保証」のようなソリューションを開発する点にある。
男性にとっては、週末を含む「17時~22時」までを8,000円(割引適用)で入店することができるし、滞在客の数を均質化できる。
その結果として、1部と2部の切れ間をなくすことで、店の雰囲気を維持することができるし、男性客の時間延長にも繋がりうるのである。
「歌舞伎町 x 深夜割」の威力
「深夜割」として、24時以降の入店料を7,500円としているのも興味深い。
この深夜割については、すでに実施している店舗を参考にした可能性が高いが、スカーレット東京の場合、歌舞伎町でありながら駅が近いという立地の良さが最大限に生かされる施策になるだろう。
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【上野激戦区】深夜半額、ハーネス東京の新戦略
スカーレット東京が店を構える歌舞伎町のさくら通りは、平日であっても終電近辺に駅を目指す人通りが特に多いのである。
終電を逃した層にとっても駅から近いという安心感は魅力的だ。
平日の深夜営業を開始とともに、深夜割を開始していることから、深夜時間帯での集客にも注力する方針であると考えられるし、採用活動も順調であり、深夜スタッフの目処が立っているという証拠でもあるのだ。
週1での「朝活」
界隈では朝活がブームだ。
もともとは、平日の主婦向けに440のブリスアウトの朝営業が定評であったが、月数回イベントとして、朝10時から営業するスタイルが話題を集めているのである。
スカーレット東京の朝活マーケットへコミットは実に的確だ。
マーケット対象の主婦セグメントは規模が小さく、すでに440とブリスアウトがカバーしているものと考えられる。
一方、月に数回のイベントはインパクトが小さい。
このようのな状況を鑑みて、スタッフへの負担も少ない週1での朝営業としたことが想像される。
もっとも私が興味を持ったのは、毎週木曜日を朝営業の日としたことである。
なぜ木曜日なのか。
まず、土日に朝営業をするのは単なる時間延長に過ぎないので、対象は平日に絞られる。
次に月曜日は週初のため集客が悪いので対象から外れる。その次に金曜日は週末であり、収益機会の夜営業に影響が出るため、これも対象からは外れる。
残るのは火~木曜日になるが、火曜日と水曜日は朝活イベントが分散して開催されているため競合する。
そうすると、消去法的に木曜日を朝活営業とするのが合理的な判断となる。
朝活営業を導入し毎週木曜日としたのは、スカーレット東京のリサーチ能力の高さを裏付けるものである。
常識破りの「週末新規割」
黒船の脅威はこれだけではない。
極めつけは新規割引である。入会金込みで5,000円で入場できるというのも破格であるが、それを金・土曜日、昼の部に導入したのは驚きである。
従来のお店は、客足の鈍い、月曜日か木曜日あたりに2,000円OFF程度の微々たるものであったからだ。
もっともスカーレット東京の判断は合理的である。
人が多く盛り上がっているタイミングに来店してもらった方がリピートや時間延長の確立向上が見込めるからである。
従来の他店は、割引を人の少ない曜日にして新規客を誘導することで、時間をかけてお店の説明をして、週末に来店してもらうという戦略であったと思われる。
しかしネットで情報が拡散しているので、もはや時代遅れの発想であるのは否めない。一番盛り上がっているときに来てもらい、場の雰囲気に合うかどうかを確かめてもらうのが、いまはユーザーにっとってもお店にとっても利益になるのである。
さらにいえば、「5時間保障」を使えば、土曜日17時~22時までを入会金込みで5,000円という破格で入場できるのである。
しかしこれは巧妙な「罠」であるに違いない。
お店が盛り上がり、女性との会話に盛り上がっている途中でお店を後にすることができるだろうか。
きっとあなたは、7,500円の延長料金を支払い楽しい時間を過ごしているはずである。
「脱イベント」という差別化
これまで、「2,000円QUOカード」、「5時間保障」、「深夜割」、「週1朝活」、「週末深夜割」などの施策を分析してきた。
徹底的なリサーチによって、そのどれもが他店の手法を参照・修正した、まったく抜け目ない戦略であると断言できる。
それではイベントはどうだろうか。
実のところ、毎週末に「音フェス」という名のイベントだけが告知されているだけである。
内容は専用スピーカーによって、大音量で音楽をかけているだけのものであり、イベントと言えるようなものであるかどうかは疑問符が付く。
最近の傾向として、毎週末のイベントに予算を投じてTwitterで大々的に告知するケースが増加している。
結果として、イベント次第で様々なお店を巡回する傾向が一般化しつつある。「脱ホーム化」あるいは「ホームレス化」と私が呼ぶ現象だ。
おそらくスカーレット東京は、イベント主体の集客からは距離を置いているのではないだろうか。
イベントに依存せず、各種キャンペーンを駆使したレギュラー営業の積み重ねで、お店の特色を強めていきたいのであろう。
新しい発想であるかのようだが、実は元々はこちらの方が一般的であったのだ。
変態とは知性である
なぜ戦略性の高い、革新的なキャンペーンを展開しつつも、イベントに対する姿勢は保守的なのだろうか。
それはスカーレット東京のツイートにヒントがある。
スカーレット東京は「同伴喫茶」の昔にまで遡行することで、未来に向けた新しいお店を模索しているのである。
ひとつの理念のもとに、過去と未来が調和した新しいお店——
徹底的なリサーチの向こう側には、そのような想いがあったのだ。
冒頭で私は、スカーレット東京を「知性と変態のマリアージュ」であると評した。
同店の戦略を分析することでその直感は間違いではなかったと断言できる。
「変態とは知性である。」
巧みなキャンペーン展開を分析すると、スカーレット東京のスタッフは、我々にそう語りかけているようだ。
【了】