イタリアンとジロリアンのマリアージュ、鳥我は「錦糸町の地下食堂」である(2024/04/08追記)
5年で80%ーー
この数字が示すものは、5年後の飲食店の廃業率である。
この厳しい数字と戦い続け、5年以上にわたって、錦糸町アングラ民に愛された「錦糸町の地下食堂」こと、麺や鳥我について今回は取り上げたい。
鳥我ほど、錦糸町のアングラ民に愛されている店はないだろう。以下の投稿は、その理由を端的に示している。
なぜなら鳥我は、錦糸町の人気店であるノンハプバーもぐらの御用達となっているのである。
それでは、もぐらを始めとしたアングラ民に愛される鳥我とはいったいどのような店なのだろうか。
本稿では、鳥我の魅力を分析するとともに、その隠された戦略について深く考察することとしたい。
鳥我は錦糸町の三角公園に隣接した場所にあるパスタ屋である。もちろん、ただのパスタ屋である筈がない、
パスタ屋でありながら、ラーメン二郎インスパイア系のパスタを提供しているのである。
Webメディアの取材に対して、店主はこう語る。
「長らく本格イタリアンで修行をしていましたが、5年前に独立して自分の店を持ちたいと思い、ずっと腕を磨いてきたパスタ屋を立ち上げました。ただ、じつは僕が週1でラーメン二郎に通うほどのジロリアンでして……。なんとかパスタであの味を再現できないかと、試行錯誤の結果生まれたのが『スープパスタジロー肉まし(にんにくあり)』です」
https://dime.jp/genre/1555206/
この発言に嘘偽りはないだろうが、ここに巧みな戦略が隠されているのでないだろうか。
それは錦糸町という地域の特性を活かした、徹底的なローカライズ戦略である。
承知のとおり、錦糸町の三角公園一帯は、アングラ店やフェティッシュ店が密集する特殊な地域である。
鳥我は、そのような錦糸町の属性に寄り添った店作りを心がけることで、飲食店の厳しい争いを生き残ってきたと考えられるのだ。
それは表面上は普通のパスタ屋を装いながらも、「イタリアン+ジロリアン」という、倒錯的ともいえるコンセプトを打ち出すことで、錦糸町のアングラ民を魅了してきたということである。
錦糸町のアングラ民は、食においても、特別な嗜好を待ち合わせているに違いないと、鳥我の店主は考えたのではないだろうか。
その目論見の正しさは、営業期間の長さと、もぐら新宿店へのお祝いが全てを物語っていることだろう。
もっともイタリアンレストランでの修行を活かして、真っ当なパスタも提供するという手堅い一面も兼ね備えている。
ところで、ノンハプバーもぐらと鳥我は、どこか共通したところがあるように思う。
もぐらは、ハプバーではないが、店の雰囲気やコンセプトは明らかに普通のバーとは違う。一方の鳥我はパスタ屋であるが、ラーメン風のメニューもあり普通のパスタ屋ではない。
端的にいえば、もぐらはハプバーでもなければ、バーでもない。鳥我はパスタ屋でもなければラーメン屋でもないということである。
両者とも言葉では定義することが出来ず、そのことが店の絶対的なオリジナリティになっているのである。
そのような魅力は錦糸町そのものであるし、それを体現した鳥我は、まさに「錦糸町の地下食堂」と形容するに相応しい名店なのである。
そんな鳥我は、今日も錦糸町のアングラ民にソウルフードを提供するーー
地下のラグランジュポイントとしての錦糸町(2024/03/28)
錦糸町を取り巻く状況は、目まぐるしく変化しながらも、ある種の均衡が維持されているように思える。
アフロディーテとノーダウトが同時期にクローズ(ノーダウトはその後、業態転換し再オープン)した後は、ノンハプバーもぐらがアフロディーテ跡地に移転し、集客力を強化。
ロタティオンのクローズ後は、「わいわい小箱」をコンセプトにしたノクターンがオープンし、若年層を中心に大きな反響を呼んでいる。
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【ハプニングを止めるな!】錦糸町ノクターンの挑戦
そうかと思えば、ノンハプバーもぐらが新宿店オープンを発表。その後に続くかのように、ノーダウトと同じORCAグループの渋谷ジャバウォックが、錦糸町への出店を発表。そしてオープンは偶然にも、ノンハプバーもぐら新宿店と同時期である。
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【錦糸町進出】東のジャバウォック誕生
このような奇妙なタイミングの一致によって、不思議なバランスを保っているのが錦糸町なのだ。
まさに地下のラグランジュポイントと呼べるような街と言えよう。
ノンハプバーもぐら、オープン4周年(2024/02/22)
ノンハプバーもぐらのオープン4周年に寄せて、コラムを執筆しました。
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【祝4周年】ノンハプバーもぐら論
ノクターン3月オープン(2024/02/21)
3月オープン予定のノクターンについて、人気にコラムを執筆しました。
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【週末1万円】錦糸町ノクターンの「選択と集中」
100日後にオープンする新店
今から1週間ほど前、100日後、錦糸町に新店舗がオープンするのことが、Xでアナウンスされた。
そしてその数日後には、新しいお店の名前が公表されたのである。
店名はノクターン。それは主にピアノで演奏され、夜を想起させる曲調の小品を意味する音楽用語であり、日本語では夜想曲を意味する言葉だ。ショパンのノクターンといえば、イメージしやすいかもしれない。
ノクターンという店名のイメージのとおり、店の営業スタイルは、いわゆる「小箱」だ。
主流になりつつある「大箱」をフルオーケストラのシンフォニーに喩えるならば、「小箱」はピアノの独奏である。
フルオーケストラに一台のピアノが太刀打ちできるのだろう?
今回の追記コラムでは、その点を議論の中心に据えて、論旨を展開していきたい。
結論からいえば、錦糸町に小箱をオープンすることは戦略的な合理性が高いと評価できる。それは同時期にノーダウトとアフロディーテがクローズして以降、錦糸町にはその代替となる店のオープンが渇望されていたからである。
つまり、ノクターンは現実に存在するニーズを拾い上げることを目的としてオープンしたと考えられるのだ。箱の巨大化が進むなかで、あえて「小箱」を選択したのも、冷静にマーケットサイズを判断した結果だろう。つまり、現在の錦糸町において、高コスト・高リスクの「大箱」を選ぶ必要はないというスマートな判断だ。
もちろん差別化を図ったり、資本力勝負の集客プロモーションをする必要もない。そうであればこそ、集客力を左右するのは、店主の実力次第ということになる。それは同時に、小箱であればこそ、店主はユーザーの信頼や期待を損なうような行動は許されないということでもある。界隈関係者の店舗が密集する恵まれたエリアでの出店であればこそ、店主に向けられる眼差しは一層厳しいものになるだろう。自分自身の欲望を満たすのではなく、ユーザーの期待に応える店づくりに注力しなければならないのである。
ここのところの界隈の傾向としては、アンダーグラウンドがSNSによって一般化したことを背景に、入場料と期待値のバランスが失われているように思える。端的にいえば、週末に1万5千円近く支払ったにも関わらず、何ら非日常的な体験を目の当たりにすることなく、店を後にするというケースが以前よりも多くなっていると考えられるのだ。少数の固定客と大多数の新規客という構図である。入店料を半額程度に抑えて、店内で関係を完結させない新しいタイプのお店が台頭しているのは、こういった現状をシンボリックに表していると言えるだろう。
店外ではなく店内に期待を取り戻す。
枯れた泉を甦らせるのが、ノクターンに与えられたミッションであるように思う。
小箱受難の時代に錦糸町に立ち上がった新店ノクターンの前途を祝し、そろそろ筆を置くことにしよう。
錦糸町の夜深く、官能的な旋律を奏でるピアノには、気まぐれな黒猫が寄り添う。月の光に照らされてーー
【了】
変態する錦糸町(2023/04/07)
いつのまにか錦糸町という街がフェティシュのメッカへ変態(メタモルフォーゼ)を遂げている。
へん‐たい【変態】
[名](スル)1 形や状態を変えること。また、その形や状態。
『デジタル大辞泉』
錦糸町界隈において、「三角公園」と呼ばれるゾーンを中心として、フェティッシュな色彩をもつバーが多数オープンしているのである。
本稿ではそれらのお店を紹介しつつ、ハプバーの街からフェティッシュバーへの街へと変貌した錦糸町の今後について考察したい。
三角公園は変態のパワースポットである。
そう言っても過言ではないほど、近年フェティッシュなお店が集中しているのである。

- 大型SMバーのミラージュ
- 女性用フェティッシュバーの耽溺
- フェティッシュバーの裏窓
まずは大型SMバーとして、ミラージュがオープンしているのは以前にも紹介したとおりである。
早いものでオープンより半年が経ち、イベントなどが好評のようだ。
続いて紹介する耽溺は、女性専用のフェティッシュバーという珍しい形態で営業しているお店である。
ABEMAでも取り上げられるなど新しい形態のバーとして注目を浴びているようだ。
最後は昨年の12月にオープンした裏窓である。
「わい談バー」を標榜しているが、吊床が設置されているなどして、緊縛に特化したフェティッシュバーという印象を受ける。
イベントも開催され、ゴールデン氏の講習会ように定員締め切りとなるほど人気の回もあるようだ。
三角公園に集まるのはフェティッシュバーだけではない。ORCAグループのバーが3店舗も営業しているのである。
フェティッシュバーの気分転換にバー巡りを楽しむのもよいだろう。
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【店舗分析】orcaグループの歴史と、圧倒的な「攻め」の経営
- BAR 4
- NoDbout
- Geek
もちろんアフロディーテの跡地にはノンハプバーもぐらも営業している。
この4月からはシステムを変更したようなので、今後の展開が楽しみである。
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【シン・もぐら】夢の続き
このように、昨年夏にノーダウトとアフロディーテのハプニングバー2店舗が同時にクローズして以降、錦糸町駅南口の三角公園一帯は、ハプニングバーからフェティッシュバーへの聖地と変態(メタモルフォーゼ)を遂げているのである。
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【錦糸町ショック】ノーダウト、7月末にアフロディーテと同時閉店
ここのところは、新宿や渋谷に話題を奪われる傾向にあった錦糸町であるが、形を変えながらも独自の文化を育んでいるのだ。
錦糸町全体についていえば、更なる展開があるとの情報を入手しているので、公にできるようになり次第コラムでも取り上げていきたい。
追記(2022/12/13)
今年9月にSMバーのMIRAGEオープン以降も錦糸町に大きな動きがあったので、追記のかたちで補足したい。
既に独立したコラムで紹介しているが、11月に1日貸しのイベントバーとして、イベントもぐらがオープンしているのだ。
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【錦糸町の新たな歴史】イベントもぐらローンチ
所在地は、閉店後のアフロディーテに移転したノンハプバーもぐらの跡地である。
もぐらスタッフOBやノンハプバーもぐらの常連がイベントを行なうなど連日賑わっている様子が伺える。
錦糸町は今年に入り、ハプバーが4店舗から2店舗に減少した一方、ORCAグループのバーが3店舗、SMバーMIRAGE、フェティッシュバー耽溺、ノンハプバーもぐら、イベントもぐらなどが存在感を強めた一年となった。
それ以外にも各店の客やスタッフが贔屓にしているローカルな飲食店が狭いエリアに密集しているような状況だ。
何度も取り上げているように、そうして新宿に次ぐハプバー第二の聖地の座を上野に譲り渡したのである。
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【秘史解禁】上野のアングラ全史
錦糸町は変化の街であるように思える。
この街には、一つの形に留まらない柔軟さ、そして移ろいゆく儚さが混在している。
その煌びやかの裏側で、夜のお店の儚さを漂わせる歌舞伎町とはまた異なった寂寥を、私は錦糸町という街から感じるのである。
来年に入っても、新しく生まれ変わる錦糸町の動向をしっかりとフォローしていきたい。
はじめての錦糸町
お陰様で前回コラムは非常に好評だった。
錦糸町SMバー「MIRAGE」にリツイートしていただいたことより、様々な人に読んでいただけたようである。
読者には今まで錦糸町に縁が無かった方もいらっしゃったようだった。
そこで今回のコラムは、これから錦糸町を体験する方に向けた案内として、錦糸町アンダーグラウンドの歴史を辿っていくこととしたい。
2003年のファーストインパクト
前回コラムにおいて、7月末でのハプニングバーに2店舗同時閉店をセカンドインパクト、そして9月下旬の大箱SMバー進出をサードインパクトと表現した。
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【錦糸町転生】ハプニングからフェティッシュへ
ここで一つの謎が残されていることにお気づきであろう。
「ファーストインパクトとはなにか。」という命題である。
ますばファーストインパクトについて詳述し、続けて現在に至るまでの錦糸町の歴史を紐解いていきたい。
ファーストインパクトとは、2003年の「exism bar turn over」(以下「turn over」)のオープンである。
それは2000年に「グランブルー」が初めて「ハプニングバー」という名前を呼称し、新宿に店をオープンした3年後に錦糸町で起こった出来事だ。
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【ハプバー考古学#03】Le Grand Bleu 〜深く潜る
もっとも「turn over」がハプニングバーを意識していたかどうかは分からない。なぜならば、ハプニングバーより前に変態バーと呼ばれる業態が存在したからだ。
ある種の嗜好性の強い人を対象とした、限られた人のためのアンダーグラウンドなお店である。私が調査した限りでは、「turn over」はハプニングバーではなく、変態バーであった可能性が高い。
ここでは結論が出ないので、いったんは2003年に変態バーをルーツを持つと考えられる店が、錦糸町に出来たと考えておくのが妥当であろう。
錦糸町のアンダーグラウンドの歴史はその時に始まったのだ。
同店は錦糸町のKビル3階で2014年まで営業、その後は同じビルの8階に移転し、店名を「ロタティオン」に変えて再オープンする。現在も営業を続けており、もはや錦糸町の老舗といえる。
2016年のニューウェーブ
意外なことに2016年に新しいお店が出来るまでは、錦糸町では何も起こらず、平和な時を刻み続けたのである。目まぐるしく変わる現在の状況とは対照的だ。
新しいお店とは本コラムでもたびたび登場する「サキュバス」である。
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【物語の終焉】錦糸町アフロディーテ(サキュバス)とは何だったのか?
2016年4月、サキュバスはプラザイレブン5階にオープンし、同ビル立て直しによる立ち退きで、2018年8月からは現在の「ノンハプバーもぐら」(以下「もぐら」)が入居するビル(ロイヤルガーデンエイト2階)へ移転する。
同店は2022年6月まで営業し、翌月からは同じ場所で「アフロディーテ」がオープンするが、1年後にはクローズとなり、跡地にはもぐらが移転する。
サキュバスが錦糸町に登場してからは、ハプニングバーの出店が増える。
2017年には当時のサキュバスと同じビルの7階に、現orcaグループの「ノーダウト」がオープンする。2019年にはカンプバーも開店し、錦糸町でのハプニングバーは4店舗となる。新宿に次ぎ同業態のお店が多い地域となったのである。
2003年から10年以上続いた悠久の時に新しい風を吹き込んだサキュバスは、錦糸町界隈のニューウェーブといえる存在だったのだ。
もぐらとセカンドインパクト
全ての物事には光と闇がある。
たしかに新宿のお店をルーツに持つサキュバスは、都心よりも低価格を実現することで、新しい客層を引き入れ、錦糸町を新宿に次ぐハプニングバーのメッカに育て上げた。それは光の部分だ。
しかし歴史を語るうえで、われわれは闇についても触れなければならない。
そして、われわれは驚愕の事実を目の当たりにすることになる。実はサキュバスから派生して誕生したもぐらが、錦糸町界隈にセカンドインパクトを引き起こす原因であったのだ。
一度もぐらの歴史について振り返ってみることにしよう。もぐらはサキュバスを辞めたオーナーが2020年に開いたお店だ。
そのような経緯から、ハプニングバーに対するアンチテーゼとして、ノンハプバーという言葉を考え、店名に付けたのではないかと思われる。そのように想定すると、ノンハプバーは店の形態ではなく、もぐらのみが名乗ることを許された店名であるともいえる。
皮肉なことに、もぐらが錦糸町で話題になったことで、同形態のお店が増えて、ハプニングバーから「界隈バー」と呼ばれるハプニングバー関係者による非ハプニングバーに、人々の関心も移っていく。
実際にorcaグループは、もぐら出店後に4とgeekという2つのお店を錦糸町に出している。
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【店舗分析】orcaグループの歴史と、圧倒的な「攻め」の経営
結果として、2022年7月末にアフロディーテがクローズし、跡地にもぐらが移転。ノーダウトも非ハプニングバーに業態を転換した。
このハプニングバーの2店舗同時クローズという前代未聞の事態をセカンドインパクトと表現したのは前述のとおりである。
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【錦糸町ショック】ノーダウト、7月末にアフロディーテと同時閉店
そしてサードインパクト
セカンドインパクトの衝撃も収まらないまま、われわれはサードインパクトに見舞われることになる。大箱SMバー「MIRAGE」の錦糸町への進出がそれである。
さらに驚くべきことに、もぐらの階下に出店するというのである。
もっとも、MIRAGEの出店がサードインパクトになるかどうかは分からない。本稿執筆時点ではまだオープンを控えた状態であるからだ。
しかし、オープン前であっても、吊り床30設置という前代未聞の大型SMバーが界隈にもたらす影響は無視できないはずである。
9月25日には、オープンイベント「ごちゃまぜNight」という内容をSMに限定しないショーが予定されているようだ。
MIRAGEが界隈の新たな歴史を作るかどうかはまだ誰も知らない。
しかし歴史の生き証人になるには、まず25日のショーを観に行く必要がありそうである。
【了】
【更新履歴】
2022/09/13公開