【週末1万円】錦糸町ノクターンの「選択と集中」

2024-02-20

「誤配」の可能性(2024/03/15追記)

グランドオープンがいよいよ来週に迫っているので、総論を展開したい。

錦糸町ノクターンは、界隈のトレンドを取り込むだけでなく、独創的な仕組みを駆使した、斬新的かつ最新のお店になる。

つまり錦糸町ノクターンは、ハプバーの定義を再更新する可能性を秘めているのだ。

そのことは、わざわざ説明するまでもなく、以下に列挙した事実をご覧いだだくだけで十分であろう。

・週末1万円の低価格化
・会員証電子化
・ハンドルネーム記入プラコップ制
・カップル料金なし
・完全分煙
・PayPay対応
・アングラ店密集エリアという好立地
・小箱営業
・平日深夜営業なし(オープン当初)
・店主が女風ランキングトップクラスの実力者かつ界隈歴10年

ところで、お互いがお互いを都合よく誤解することが、それぞれの願望を叶える手掛かりであるように思う。

そのようなコミュニケーションの在り方を、哲学者の東浩紀はジャック・デリダの理論を拡張することで、「誤配」と名付けた。

もっともSNSに生活を覆い尽くされた現在では「誤配」の可能性は閉ざされているようにも考えられる。

SNSを参照することで、関係性がリアルタイムで更新されてしまい、誤解を誤解として放置することが出来なくなっているからだ。

たとえアカウントを所有していなくても、ここまでSNSが一般化した社会では、以前のように一期一会で他者と交わるという感覚から、我々は随分と遠いところにいるように思える。

抽象的な説明が続いたので、いったん現実レベルに話を戻そう。

それはSNSでお店の存在を知った、見ず知らずの男女が同じ空間にいても、常にSNSが意識にあり、日常生活の延長としての雰囲気に支配され、店内で全く何も起こらない事象が一般化しつつあるということだ。

ここで重要なのは、SNSのアカウントで繋がって、店内と店外を行き来するという行為そのものが、アングラ特有の店内での立ち振る舞いを阻害しているのではなく、否応なくSNSと結合してしまった我々のメンタルこそが、コミュニケーションの障壁になっているということである。

このような現象に陥り、早期クローズを余儀なくされたお店がどれだけあるのかは、改めてここで論じるまでもないだろう。

しかし、クローズドかつコンパクト、そしてミニマルな店作りのノクターンであれば、店主がコミュニケーションを制御することで、「誤配」の生じる余地があるのではないか。

誤配の可能性ーー

そのことはノクターンの料金体系や立地条件と並んで、重要な要素になってくるに違いない。

誤配こそがハプニングを生むーー

店主と常連が作り出す雰囲気だけが、この店の全てになるのだ。

小箱のノクターンでは、繊細かつ洗練されたコミュニケーションが重要になってくるだろう。

そう考えると、日本語で夜想曲を意味する「ノクターン」という店名は、これ以上になく、店のコンセプトに相応しいものだ。

新しいお店が誕生することを心から祝って、いったん筆を置くとしよう。

アンダーグラウンドの現在地(2024/03/07 追記)

錦糸町ノクターンはプレオープン及びグランドオープンの日程を発表すると共に、Webサイトをローンチ。同日にWebサイトでの会員登録も開始した。

これでいよいよグランドオープンを待つばかりとなったのである。

Webサイトには住所も記載されており、お店は、ノンハプバーもぐらなどのアンダーグラウンド界隈の店が集中する、いわゆる「三角公園」の周辺に所在するようである。錦糸町ではこれ以上にない立地条件である。


錦糸町ノクターンのロケーションは、週末1万円(書き込み割引適用時)と並ぶ、同店の強みになることだろう。

ところで、ノクターンの特徴は価格体系と立地だけではない。ハンドルネームを書き入れたプラカップで飲み物を提供するという方式もまた斬新なのである。

什器やオペレーションのコストを削減することによって、スタッフのリソースの店内のコミュケーションに集中するとことを目的とした判断であろう。

このような割り切りは、いかにもノクターンらしい「選択と集中」である。

また3秒後に名前を失念するというありがちなミスを防ぐという副次的な効果も期待できるだろう。

ともあれ、再来週には店がオープンするのである。

錦糸町がアンダーグラウンドのトレンド発信源になるかどうか期待が集まる。

https://twitter.com/nocturne2024/status/1762371808324616636?

アンダーグラウンドのショパン

ショパンの夜想曲(ノクターン)は、ワーグナーの楽劇(オペラ)をも遥かに凌ぐインパクトを兼ね備える。

この3月、錦糸町にオープンする新店ノクターンが、ついに料金体系を発表。価格水準のベンチマークとなる週末料金を、他店よりも圧倒的に低い1万円(掲示板書き込みの割引適用時)としたのである。これには衝撃という他ないだろう。

錦糸町では同じ時期に、アフロディーテがクローズ、ノーダウトが業態を転換したこともあり、受け皿となる店のオープンが切望されていたが、ノクターンはそれに応えるかたちでの出店となる。

現実に存在するニーズを汲み取った見事なタイミングであるように思う。もっとも特筆すべきはタイミングだけではない。小箱というスタイルも極めて現実的な経営判断である。

なぜならマーケットはすでに飽和状態であり、差別化のために規模的に拡張する傾向もそろそろ限界に近づいているからだ。

クラシック音楽に擬えれば、アンダーグランドはいつしか、4夜に渡って上演されるワーグナーの『ニーベルングの指環』のような壮大な規模にスケールアップしてしまったのである。

つまり、オペラが演劇、音楽、美術などを取り入れた総合芸術を目指したように、ここ数年のアンダーグラウンドもまた店舗面積、接客、イベント、アミューズメント設備など、多角的にクオリティが向上し、複合的なサービスが提供されるようになっているのだ。

このような状況下でノクターンが出した答えは、まさに店名を体現するものであった。それはワーグナーの壮大なオペラのように膨張した最近の店に対抗するかの如く、シンプルな小箱での営業という選択であったからだ。さながらそれはグランドピアノで奏でられるショパンのノクターンのようでもある。

そのうえで週末1万円という料金体系。それはここのところを勢いを増しているアンダーグラウンドの新しい形態を意識した判断であると思える。具体的には、既存のアンダーグラウンドより料金を半分程度に抑える代わりに、店外でコミュニケーションを進展させるというスタイルが台頭しているのだ。

これを受けて、錦糸町ノクターンは、店内のみで関係性を完結させる既存店と、店外で関係を進めることを前提する新スタイル店の、ちょうど中間の料金を設定したと考えられるのである。

近年のアンダーグラウンドといえば、レギュレーションが厳しくなる一方、SNSでのプロモーションによって、一般化が進んでいる。

このことから支払った料金の分だけ、ある種の経験値が上がる「サービス」であると、お店のコンセプトを誤認するケースが増えているのだ。もともとアンダーグラウンドは「サービス」ではなく、同じ価値観を秘密裏に共有することで、閉鎖された空間で信頼関係を構築するという「コミュニティ」であったはすだ。

いつしかそのようなコンセプトが忘却された結果、期待値と料金設定のアンバランスが顕在化しているのである。

このようにして既存店が頽落したことが、新しいスタイルのアンダーグラウンドが注目される背景である。しかし錦糸町ノクターンは、小箱営業により低コストを実現することで、価格設定を大胆に見直し、旧来のアンダーグラウンドに流れを戻そうとしているのである。

つまり、錦糸町ノクターンは安さを売りにしたディスカウント店を目指しているのではなく、本来のアンダーグラウンドの価値を取り戻そうとしているのだ。

そして、錦糸町ノクターンが地道な営業を覚悟していることは、料金体系と同時に発表された営業時間から伺い知ることが出来る。

それは昼営業は設けずに、朝方までの営業は週末のみ。木曜日と日曜日は定休日という、クオリティと体力の維持を意識した営業形態であるからだ。

まずはコアになる客層をリピートさせて、自律的なコミュニティを立ち上げることにリソースを投下するのだろう。

それは店のキャパシティ故に、どうしても新規客を重視しなければならない中規模以上の店にはない、小箱の強みであるように思う。

店主が全てのお客の人間関係を把握することでコミュニティをデザインするということは、コンパクトなお店でしか実現できないのである。

裏を返せば、それは集客は店主の手腕頼みであるということを意味する。以前にも別のコラムで記したが、新店舗が出来ても、すぐに店を盛り上げてくれる他店舗の実力者が来店することはない。既に通っている店に満足しているから当然である。

したがって、まずは既存の人間関係による集客を頼りにしつつ、有望な新規客をいかに育てていくかということに尽きる。そのような地道な営業を積み重ねながら、界隈のパワーバランスが変化するなかで、評判を聞きつけた他店の実力者が来店するようになるのを待つという我慢の営業が続くのである。

「お客さんが入るには、少なくとも1年はかかる」とかつては言われていたが、ここのところは最初の周年イベントで大入りになる店と、数ヶ月でクローズする店に二極化している。クローズする店におおく見られるのは、オープン当初は目新しさから歴の長いユーザーも来店するが、次第に界隈の完全なビギナーだけになり、店の雰囲気を全く作れないという現象である。

どうやってリピート客を作るのかというノウハウを全く持っていないスタッフがカウンターに立ち、閑散とした店の雰囲気がSNSで密かに共有され、飲食店と同じスピードで収益化できると考えていた、このビジネスに明るくないオーナーが資金を引き上げるといったことが繰り返されてきたのである。

錦糸町ノクターンは、高い戦略性のもと、有利な外部環境でのスタートとなるが、店主の実力勝負になるという点は、既存の店舗と変わらないだろう。

さて、店舗の工事は順調であり、あとはオープン日、住所、PayPayなどのキャッシュレス対応の有無などの発表を待つばかりである。

今後も錦糸町ノクターンが「選択と集中」により、ミニマルかつディープなコミュニティを作れるかどうかに注目していきたい。

錦糸町の夜に、グランドピアノから奏でられる甘美な旋律を待ち焦がれながらーー

【了】

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