地下の同窓会
予言の自己成就とはまさにこのことである。
スカーレット東京の周年イベントに寄せたコラムにおいて、スカーレット東京とピュアティワンが、アンダーグラウンドにおいての共通のルーツを持つという仮説を展開したところ、ピュアティワンがイベントとして同窓会を開催し、自店舗の会員だけでなく、スカーレット東京の会員にも参加資格を与えると発表したのである。
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【14年ぶりのカップル喫茶】スカーレット東京、新宿にオープン
今回のコラムでは、ピュアティワンの歴史を振り返ることで、今回開催される同窓会イベントの意義を考察していきたい。
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【何度でも新しく生まれる】新宿ピュアティワンの研究
『ナックルズ』2023年8月号でピュアティワンのマスターが語っているように、青山(のちに新橋へ移転)にグレイホールという変態バーと呼ばれる業態のお店があり、マスターは常連客であったのだ。変態バーという名前のとおり、マイノリティーな嗜好を持つ人たちが集まることを除けば、それ以外は普通のバーであったという。
次第にグレイホールの常連が、自分でお店を持つようになり、ピュアティワンもその一つであったのだ。
『ナックルズ』でのインタビューによれば、ピュアティワンよりも、少し以前に、同じくグレイホールの常連がグランブルーというカップル喫茶をオープンし、カップルだけでなく単独男性の入店も解禁するようになる。そこような経緯から、当初グランブルーをハプニングバーの起源としてコラムで取り上げたのは、以下のコラムに記したとおりである。
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【ハプバー考古学#03】Le Grand Bleu 〜深く潜る
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【ハプバー考古学 #02】ハプニングバーの創世記(プレハプバー~第1世代)
だが事情は複雑であった。
たしかに、グランブルーがカップル喫茶として、ピュアティワンより早くオープンし、単独男性を入店を認めたことによって、初の「ハプニングバー」になったという考え方も成立する。じっさいリサーチ当初の私もこの説を支持していた。
しかし、ナックルズでのインタビューによれば、グレイホールと同じような変態バーとして、ピュアティワン(オープン当初の店名はピュアティ)をオープンしたものの、お客同士で地上とは隔離されたアンダーグラウンドのコミュニケーションが発展していった結果、自然発生的にハプニングが起こったというのである。客同士で「昨日はハプニングが起こった」というような会話が為されるようになったというのだ。
ちなみに、ハプニングという言葉の起源については、以下のコラムで示した通り、もともとはアメリカで生まれた現代アートの概念であったが、歴史的な経緯を経て、日本のバラエティー番組の名前にも流用され、やや陳腐なニュアンスを持ちながら、一般的な言葉になっていったのである。
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【はじまりの記憶】ハプニングの起源について
話を元に戻せば、ピュアティワンは、グレイホールのような変態バーとして誕生し、アンダーグラウンドならではのコミュニケーションを許容していたに過ぎないのだ。一方で、カップル喫茶でありながらも男性を受け入れていたグランブルーもあった。こちらの方がオープンが早いことから、ハプニングバーの起源と呼ばれるようになっていったのではないだろうか。
上記の経緯を踏まえれば、ピュアティワンとグランブルーのどちらが、「初めてのハプバー」であったかは、視座によって結論が異なるという他ないだろう。
しかし、グレイホールから派生し、はじめてハプニングが起こった「変態バー」という意味においては、ピュアティワンがそれに該当すると考えるのが妥当である。言い方を変えれば、ピュアティワンは「ハプニングバー以前のハプニングバー」であったのだ。
そして、「ハプニングバー以前のハプニングバー」の持つコンセプトを「原点」として掲げてオープンしたのが、スカーレット東京であるというのは、これまでにもコラムで展開してきたとおりである。
その一方で、ハプニングを「ハプバー」としてパッケージ化し、クオリティの高いサービスとして提供してきたのが、渋谷SB/ロシナンテであり、その後継は上野パピヨンである私は考えているのである。
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【追悼文】渋谷ロシナンテのクローズについて
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【愛妻家】パピヨン阿部店長はハプバーの未来を見据える
これら双方に優劣をつけることに意味はない。それは、それぞれが思い描いているアンダーグラウンドの原風景が元々異なるからである。
ところで、ピュアティワンは昨年より、ラブドールバーへと業態を転換している。
スカーレット東京の会員を招いて開催される同窓会というのは、グレイホールの時代から培われた精神を、ピュアティワンからスカーレット東京へ引き継ぐための重要なイベントなのではないだろうか。
ピュアティワンの同窓会終了後は、スカーレット東京でアフターパーティが開催されるとのこと。
こうして世代をまたいでアンダーグラウンドのDNAが受け継がれていくのである。