「到底納得できない」
いよいよ新宿5丁目にある赤い部屋の主が拳を振り上げた。
11月19日にYoutubeに公式チャンネル「BBちゃんねる」を開設し、格闘技イベント「BreakingDown 7」オーディションへのエントリーを宣言したのである。
赤い部屋の主は、参戦の動機をこのように語る。
「いろいろあったけど、41歳になってから最後に暴れたいと思った」
しかし、決意を語る美女と野獣マスターの表情は、何かを悟ったかの如く、終始穏やかである。
「到底納得できない」
そのような声無き声と共に、まなざしの奥に、静かな怒りを感じたのは私だけではないはずだ。
社会や時代に対する憤りが、野獣を突き動かしているに違いない、そう確信した。
レジェンドが集う店
美女と野獣は、11月15日、新宿5丁目にオープンしたバーだ。
-
-
【美女と野獣】新宿5丁目の赤い部屋
ワイワイ系と言われるハプニングバーの原点である、美女と野獣(2002~2009)、そしてそれに続く、眠れる森の美女(2006~2022)の店長を務めたレジェンドが仕掛け人であり、同店のマスターを務める。
マスターの存在そのものがハプニングであるといっても過言ではないだろう。
かつてのお店の名前を拝借し店を開いたことも自然の成り行きと言えそうだ。
もっとも、店の業態は時代に寄り添って、レギュレーションやコンプライアンスに倣い、「合法ハプニング」を名乗る。
しかし形態こそ変われども、2002年のアングラ精神は何も失われていないように思う。
それは、ハプニングの名のもとに、地下に潜ることで自分自身の感性を解き放ち、それを他者と共有する運動に他ならない。
美女が野獣に——
野獣が美女に——
そのような交錯と倒錯が、この店にはある。
いわゆる界隈バーと呼ばれる店が多く集まる歌舞伎町ではなく、あえて喧騒から離れた新宿5丁目に店を構えたのは、いま失われつつある何かを取り戻そうとする気構えではないだろうか。
だから新しいお店にも関わらず、20年の歴史で積み上げてきた重みを感じさせるのである。
そうかといって、堅苦しさや敷居の高さのようなものは決して感じさせない。
Youtubeで公式チャンネルを作ったのはその表れだろう。
店の扉は、SNSネイティブのZ世代にも大きく開かれているのである。
何かを取り戻そうとするだけではなく、新しい何かも積極的に取り込もうとしているのだ。
古いことにはこだわらず、全感覚的にありのままに物事を受け入れるような姿勢はYoutubeの動画にも象徴されている。
ハプニングのW杯
W杯の期間中、新宿中の様々なお店がスポーツバーのように盛り上がることだろう。
美女と野獣でも日本戦を放映するという。
しかし、美女と野獣での観戦は何か特別な体験になるのではないか。
20年に及ぶアングラヒストリーをバックグラウンドに持つ同店あれば、そのように期待してしまうのだ。
純白に覆われた階段を駆け上がり、木製の扉のドアノブに手をかければ、そこには真紅の空間が広がる——
美女と野獣はそのようなメルヘンチックな空間だ。
最後に私はこのように願ってやまない。
このコラムを読んでくれたあなたが、夢の国の住人になることを。
もちろんアンダーグラウンドの——
【了】
【更新履歴】
2022/11/22公開