【セレブ】銀座のアングラ物語

デカダンスとアングラ

デカダンス119世紀末、フランスを中心とした文芸上の一傾向。虚無的、退廃的、病的な唯美性を特色とする。ボードレールを先駆とし、ベルレーヌ・ランボーらに代表される。退廃派。(デジタル大辞泉)という言葉に象徴されるように、ときに性愛を伴う退廃な美しさと貴族的な豪華絢爛は交錯する。

イタリア貴族の血筋を引くルキノ・ヴィスコンティ監督2イタリアの映画監督。大貴族の家系に生まれ,パリでジャン・ルノワールの助監督となり,帰国後,ポー川流域地帯の下層民の愛と犯罪を,乾いたリアルなタッチで描いた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1942)を発表し,ネオレアリズモ映画の開幕を告げた。(デジタル版 集英社世界文学大事典)はこのように言う。

「デカダンス、もはや決まり文句になってしまった言葉だ。不健全なことを言う意味に使っている。しかし、本当のデカダンスとは、芸術を理解するひとつの方法なのだ。」

出演:ダーク・ボガード, 出演:ビョルン・アンドルセン, 出演:シルバーナ・マンガーノ, 監督:ルキノ・ビスコンティ, プロデュース:ルキノ・ビスコンティ

不健全な美しさとラグジュアリーは決して相性が悪くないし、アートを理解する手立てにもなるのである。
野暮を承知でヴィスコンティの言葉を付言すれば、アートを理解するのにエロスは必要であり、エロスを理解するのにもアートは必要であるということだ。

フェデリコ・フェリーニ監督3イタリアの映画監督。〈ネオレアリズモ〉から出て〈ネオレアリズモ〉を変革した重要な監督として知られる。(世界大百科事典)の『魂のジュリエッタ』やスタンリーキューブリック監督4米国の映画監督。雑誌社のカメラマンなどを経て映画界に入る。芸術性を追求し、問題作を世に送り出した。クラーク原作の「2001年宇宙の旅」はSF映画の金字塔とされる。他に「現金(げんなま)に体を張れ」「博士の異常な愛情」「時計じかけのオレンジ」「フルメタル‐ジャケット」など。クーブリック。(デジタル大辞泉)の『アイズ ワイド シャット』は夫婦生活をテーマにしながらも、乱交パーティが登場することを考えれば、芸術と性愛の近接性については、ここで多く語る必要はないだろう。

出演:ジュリエッタ・マシーナ, 出演:サンドラ・ミーロ, 監督:フェデリコ・フェリーニ
出演:トム・クルーズ, 出演:ニコール・キッドマン, 出演:シドニー・ポラック, 出演:トッド・フィールド, 監督:スタンリー・キューブリック

私がコラムでハプニングバーなどのアングラを題材にしながら、芸術や映画の批評を織り交ぜるのも、ルキノ・ヴィスコンティの言葉にしたがったに過ぎない。

その実践として、ゲルハルト・リヒーター5ドイツの画家。ドレスデンに生まれる。1948年から舞台や看板のデザインを学びはじめ、58年ドレスデンの美術学校に入学、主に写実主義的な絵画を学ぶ。看板のデザインや写実主義芸術は、旧東ドイツのような社会主義国家では、大いに奨励された芸術だった。(日本百科全書)の展覧会とフランス現代思想研究者の千葉雅也の小説にハプニングバーを接続するテクストを執筆したり、

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ハーネス東京のオープン半年記念に寄せたコラムに、フェリーニの映画を重ね合わせるなどの試みを続けてきたのである。

【オープン半年の記念に寄せて】フェリーニの8 1/2、ハーネスの4 1/2

実際にハーネス東京は、パープルアゲート6石英の結晶の集合体(玉髄(ぎょくずい))で、色や透明度の違いにより層状の縞模様をもつもの。色は乳白・灰・赤褐色など変化に富む。宝石・装飾品とされ、また硬質なので乳鉢にも使われる。アゲート。(デジタル大辞泉)を贅沢にバーカウンターに使用したり、店内に絵画を展示する一方、ハーネスなどのフェティシュなアイテムを数多く取りそろえるなど、ルキノ・ヴィスコンティのようなデカダンスを感じさせる。

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では、2022年現在そのようなお店が銀座に存在するのだろうか?
答えはノーだ。

銀座にはハプニングバーやカップル喫茶はない。

銀座のカップル喫茶

命題は続く。

過去、銀座にアングラ店は存在したのか?
答えはイエスである。

もっとも、このようにコラムが公開されているので、それは当然の回答であるとも言える。

まずは銀座周辺を含めたアングラ店のリストをご覧いただこうと思う。

調査対象を銀座を含む中央区と、銀座に隣接している港区新橋と千代田区有楽町にまで拡張すれば、アングラ店はなかったわけではない。

まずは元祖変態バーのグレイホールが青山から新橋に移転し営業している。
グレイホールはハプニングバー全史シリーズの初期でも最重要店として挙げており、カップル喫茶やハプニングバーなどのアングラの原点ともいえる存在である。

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機を見て実態を明らかにしたいと考えている。

グレイホールがもともと青山にあったというのも興味深い事実だ。
日本におけるハプニングという言葉(もともとは現代美術の用語)の発祥地も青山(草月ホール)であり、クラブの発祥の地もまた青山であるからだ。
アングラの発祥地も青山であったということだろう。

【はじまりの記憶】ハプニングの起源について

アングラの起源が青山にあったという事実は、アングラ遊びがもともとはハイソサエティに属するものであったことを伺わせる。ヴィスコンティ的なデカダンスである。

話を戻すと、同じく2000年以前であると思うが、FIVE☆STAR(佃)とナスカ304(銀座東)というカップル喫茶が存在していた。
いまでは再開発が進みタワーマンションが林立するゾーンではあるが、もともとは下町エリアなので20年以上前であれば、このようなお店があっても不思議ではないだろう。

2000年に入り登場するのは、知る人ぞ知るフェティッシュバーの外堀通り倶楽部(2000~2012)である。
Webサイトには、地下鉄新橋駅の5番出口徒歩10秒と所在地が記載されている。
銀座をちょうど外れた場所であり、新橋駅近くの雑居ビルであれば、このようなお店があったとしてもさほど違和感はない。

もっとも、隣接する銀座8丁目は高級クラブのメッカであるので、その意味では面白い場所に所在していたと言えるだろう。

続いて登場するのはラウンジトップである。おどろくべきことに銀座6丁目に所在していたのだ。みゆき通りを少し入ったところにあり、正真正銘の銀座だ。

WebArchiveから当時のWebサイトを確認したところ、昼間だけの営業で料金はカップルで1万円程度であったようだ。

続いて登場するのは、逆ナンパ喫茶と呼ばれる業態のAUQA CLUBというチェーン店が新橋にあったようである。
いまではテレクラなど同様に完全に廃れているが、この逆ナンパ喫茶を活用する女性やカップルもいたようだ。

その次に紹介するお店は、salon de ABUMAというサークルである。正確な場所は明らかになっていないが2005年~2007年まで銀座に存在していたようだ。

Webサイトを見る限り、レズビアンを対象とした自宅開催のカップルパーティーであったようである。

銀座といっても概念的には対象地域は広いので、マンションの一室でパーティが開かれていても不思議ではない。
デカダンスという言葉に相応しい世界が広がっていたのではないかと想像させる。

salon de ABUMAがオープンにしていただけであって、今でも都心マンションの一室でクローズドにパーティが開催されているものと考えられる。
実際にメンバー男性が年会費を払うことで都心マンションの一室を借りて運営されているサークルも存在すると聞いたことがある。
月の家賃が30万円程度、男性会員数が10~20名程度だと想定しても、もともとこの手の遊びの趣旨を考えれば驚くには値しないだろう。

コラムの趣旨からは大きく外れるが、ある種の社会的ステータスの男性が女性を伴わずに同性だけで集合するという風景は想像しにくいのである。
女性を交えることでお互いを拘束するような秘密を共有し、それが結束力を高めているようにも思えるからだ。
そのような場所として、完全クローズドなサークルは存在するに違いないのである。

最後に紹介するのは、DreamOne有楽町というハプニンバーである。驚嘆するのは、有楽町2丁目という所在地だ。
少し分かりにくいかもしれないが、下に示した地図の明るく白くなっているエリアにお店が存在していたということである。
銀座と丸の内を合わせたような雰囲気であり、ハプニングバーが存在していたとはとうてい考えにくい場所だからである。
(具体的な所在地を記憶している方がいれば教えていただきたいものである)

同店は有楽町から赤坂へ移転するとともに、支店を新宿にも出していたようである。赤坂店クローズ後は新宿店は名前を変えており、2010年代の半ばまで、カップル喫茶として営業を続けていたものと考えられる。

銀座のアングラの物語

コラムのタイトル「銀座のアングラ物語」は、1962年の公開された石原裕次郎主演の映画『銀座の恋の物語』をイメージしたものだ。
銀座という場所は、ハイソサエティを象徴しながらも、なんとなく男女の湿っぽいの情念を感じさせるからだ。

出演:石原裕次郎, 出演:浅丘ルリ子, 出演:江利チエミ, 出演:ジェリー藤尾, 出演:和泉雅子, 出演:清川虹子, 出演:清水将夫, 監督:藏原惟繕

じっさい銀座には高級クラブもあれば、ナンパスポットとして有名なコリドー街(同所ではパブリックスタンド銀座コリドー店も営業している)もある。
男女関係には表も裏も、そして地上も地下もあるということではないだろうか。
しかし銀座6丁目にあったカップル喫茶が2007年まで営業していたと想定すると、銀座のアングラ物語は2010年代には終わっていたということになる。

2020年に入り物語の続編を楽しみにしている人も多くいるのではないだろうか。

ふたたび銀座にハプニングバーがオープンする日は訪れるのであろうか?【了】

【公開履歴】
2022/11/20公開

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    19世紀末、フランスを中心とした文芸上の一傾向。虚無的、退廃的、病的な唯美性を特色とする。ボードレールを先駆とし、ベルレーヌ・ランボーらに代表される。退廃派。(デジタル大辞泉)
  • 2
    イタリアの映画監督。大貴族の家系に生まれ,パリでジャン・ルノワールの助監督となり,帰国後,ポー川流域地帯の下層民の愛と犯罪を,乾いたリアルなタッチで描いた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1942)を発表し,ネオレアリズモ映画の開幕を告げた。(デジタル版 集英社世界文学大事典)
  • 3
    イタリアの映画監督。〈ネオレアリズモ〉から出て〈ネオレアリズモ〉を変革した重要な監督として知られる。(世界大百科事典)
  • 4
    米国の映画監督。雑誌社のカメラマンなどを経て映画界に入る。芸術性を追求し、問題作を世に送り出した。クラーク原作の「2001年宇宙の旅」はSF映画の金字塔とされる。他に「現金(げんなま)に体を張れ」「博士の異常な愛情」「時計じかけのオレンジ」「フルメタル‐ジャケット」など。クーブリック。(デジタル大辞泉)
  • 5
    ドイツの画家。ドレスデンに生まれる。1948年から舞台や看板のデザインを学びはじめ、58年ドレスデンの美術学校に入学、主に写実主義的な絵画を学ぶ。看板のデザインや写実主義芸術は、旧東ドイツのような社会主義国家では、大いに奨励された芸術だった。(日本百科全書)
  • 6
    石英の結晶の集合体(玉髄(ぎょくずい))で、色や透明度の違いにより層状の縞模様をもつもの。色は乳白・灰・赤褐色など変化に富む。宝石・装飾品とされ、また硬質なので乳鉢にも使われる。アゲート。(デジタル大辞泉)

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