【おでんくんも勉強!】ハプニング・バーはなぜ違法なのか?

2022-05-24

今回のコラムは、おでん君シリーズの第三弾をお届けする。

コラムのテーマを紹介する前に、2つの結論を示そうと思う。

  1. 現行法制下では、いかなるハプバーも違法である
  2. アングラ遊びには、法律の知識は必要不可欠である

今回のテーマは、タイトルのとおり、ハプニング・バーの違法性について、法律に基き解説していくものである。丁寧に説明することを心掛けたので4000文字オーバーの長文となってしまった。結論だけを冒頭で示したのはそのためである。

具体的な解説に入る前に、これまでに公開したコラムについておさらいをさせていただこうと思う。

第1弾では、渋谷の眠れる森の美女(SB)が摘発された時の状況を、おでん君が間一髪で逮捕を逃れた事例と併せて説明するとともに、ハプバー摘発の歴史についても紹介した。

【ハプバー摘発の歴史】おでんくん、SB摘発を間一髪で逃れる

第2弾では、おでん君炎上の経緯を紹介するとともに、SB摘発の影響と今後のハプバー業界の動向についても解析した。

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今回の第3弾では、「ハプバーがなぜ違法であるか」というシンプルな問いに対し、法律や判例を引用し厳密に説明するとともに、現状の問題点も明らかにしていきたい。
ハプバー通いを続けるおでん君にもぜひ勉強していただきたい内容である。
冒頭で紹介したように、ハプバーが違法である以上、法律的な知識を習得したうえで、状況に応じて、デリケートに行動してもらいたいからである。

それでは具体的な解説に入っていこう。
今回の摘発では、客が「公然わいせつ」、店員が「公然わいせつほう助」で現行犯逮捕されている。

公然とわいせつな行為をした者は、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する。

刑法第174条

上記のきわめてシンプルな条文が、今回の摘発で適用された刑法第174条の公然わいせつである。刑法は犯罪とそれに対応する刑罰が定義するものであるが、そのうち、今回は公然わいせつに抵触したため、逮捕されたというわけだ。

ちなみに逮捕の意義であるが、裁判所が刑罰を科すかどうかを審判するうえで、主に容疑者が逃亡したり、証拠を隠滅しないように身体を拘束するための措置である。

一般的には、警察(厳密は、捜査機関又は私人)による逮捕後に、検察が裁判を起こす(起訴)かどうかを判断し、裁判を経て、有罪かどうかが決まるのである。
(この部分は刑事訴訟法の分野であるので今回は深く掘り下げない)

しかし、法律の条文だけでは、あまりの抽象的過ぎて、どのような要件で逮捕したらいいのか見当が付かない。
公然とは何か?わいせつとは何か?が何も示されていないからだ。

そのため、法律は判例とセットで運用される。
では判例とは何か?
『有斐閣 判例六法』のはしがきを引用して解説しよう。

判例は、裁判所が具体的事件を裁断するために、法令の意味内容を明らかにしたり、判断基準を提示したり、法の一般原則を具体化したりするものですが、法の実務において常に参照され、我が国の法体系の重要な一部をなおしています。

有斐閣 判例六法

このように、刑法を基礎として、裁判の判決を通じ、具体的に何を犯罪と判断するべきかが、判例という形で蓄積されているのである。
しがって、判例を参照しなければ、何が犯罪かどうかは分からないのだ。

そうすると、公然わいせつにおいて、わいせつ行為とは何であるのか、公然とは何であるのかという疑問も判例が答えてくれそうである。

行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる動作であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの

東京高裁昭和27・12・18 高判集5巻12号2314頁

上記がわいせつ行為を説示した判例である。難しく記されているが、はっきり言えるのは、公然わいせつ罪において、性行為はわいせつ行為ということである。ストリップ劇場の実演ショーのようなものが典型である。

この点、SB摘発事件とあわせて考えると、店内で行われていた行為が、わいせつ行為に当たるか否かという点は、何ら議論の余地はない。(ハプバーだから当然ではある)
もっとも、店内で全裸になっていた客は逮捕されずに保釈されたという情報もある。
これは、店内で性器を露出する行為は、判例によれば、明らかにわいせつ行為であるが、店内での性行為に比べれば、程度が低いということや、店の摘発が目的であったことなどから、現場の判断により見逃されたものであると考えられる。

話は逸れるが、「わいせつ」が争点になるのは、公然わいせつ(刑174条)ではなく、わいせつ物頒布等(刑175条)である。
わいせつ物頒布等罪では、わいせつ行為ではなく、表現におけるわいせつ性が問題になる。
具体的には、性的表現を含む小説や映画などについて、わいせつ物頒布等罪が適用され、憲法における表現の自由との兼ね合いから、しばしば議論になってきたのである。(当初は学術的・芸術的な表現でもわいせつとされたが、時代の変遷によって緩和されるようになった)

このように、公然わいせつで問題になるのは、わいせつ行為が何であるのかではなく、公然とは何であるかという「公然性」についてだ。それはSB摘発事件についても同様である。
まずは、公然性について説示した判例を紹介しよう。

「公然と」とは、わいせつな行為を不特定または多人数が認識し得る状態をいう

最決昭和32・5・22刑集115号1526頁

上記の判例は、他人から見られていなくても、見られる可能性があれば違法であるということを説示している。

例えば、屋外の誰もいない場所で、露出羞恥プレイを楽しんでいたとしても、たまたま誰も見ていないから逮捕されていないだけであって、屋外である以上、誰かに見られる客観的な可能性があるので違法ということだ。

SB摘発に則していえば、ルーム内のわいせつ行為は、マジックミラーによって他人から見れるようになっていたので、公然性が認められるということである。

ではルームが完全に遮蔽されていた場合はどうか?
判例によれば違法である。

判示の所為は夜間密閉した部屋で特定の客を相手になされたものであるから公然猥褻の行為とはいえないというけれども、原判決挙示の証拠によれば不特定多数の人を勧誘した結果各判示の日判示料亭において集まつたそれぞれ数十名の客の面前で判示の所為に及んだことが認められるので第一審判決事実認定の部にいわゆる数十名の客とは不特定の客の趣旨であると解せられ、従つて右所為がたとえ夜間一定の部屋を密閉してなされたとしても公然猥褻罪の成立を妨げるものではなく、この理由から第一審判決を肯認した原判決は正当であつて論旨は理由がない。

最決昭和31・3・6刑集112号601頁

上記の判例によれば、わいせつ行為が遮蔽された空間でなされた場合であっても、不特定多数を勧誘した結果として違法性が認められるという。この場合、不特定多数への勧誘が公然性に該当するという判断である。

典型的には、パーティで参加者が逮捕されるケースがこれに該当する。(主催者は売春防止法の周旋か、ホテルの目的外利用による詐欺による逮捕が多い)

もっとも、下級審(静岡地沼津市判昭和24・6・24 下刑集9巻6号851頁)ながら、公然性が否定されたケースも存在する。
本ケースでは、撮影会の名目で別荘にて4名に対して、わいせつ行為を行っていたものの、閉鎖的な場所で開催され、参加者が個人的関係にあるなどして、特定少数(本件は4名)であるため、公然性が否定されている。

たとえば、ソープランドが売春防止法で摘発されないのは、個人的な関係によって、客と従業員が性行為に及んだという建前によるものだ。

しかし、施錠などによって遮蔽されたルームで、一組の男女が性行為に及んでいたところ、それがソープランドの建前のような理屈で、法を逃れることができるかどうは疑わしいところである。
(そもそもソープランドの建前は、ソープランドを事実上合法化するために作られたものであるので、ソープランドのだけ通用するものである)

それは店が営業によって不特定多数の客を勧誘し、その客同士も本名や連絡先も知らないため、特定性によって、違法性を否定するのは難しいということである。

せいぜい一組の男女しかルームに入っていないということで、多数性のみを否定できる程度であろう。それ以外にも、消防法や風俗営業法によって摘発されるリスクは残る。

このように法律と判例による解釈では、今回の摘発は釈然としない。
なぜだろうか?

それは「保護法益」という、法律にとって基本的な概念を見落としているからに他ならないからだ。

保護法益とは、法律によって守られる利益のことである。保護法益の分類には、社会、個人、国家があり、公然わいせつの法益は社会的法益なのである。
このことは何を意味するのであろうか?

それは公然わいせつによる被害者(わいせつ行為を見せられたことにより、嫌悪を抱くなどして、道徳感情が侵害されたというようなケース)がいなくても、犯罪として成立するということだ。

公然わいせつ罪は、個人的利益ではなく社会的法益を守る法律だ。
それでは具体的な保護法益は何であろうか。
実のところ、見解が分かれており定かではないのである。

伝統的な見解では、「性行為の非公然性」という性道徳や性秩序を保護法益とする。
しかし、芸術的・文学的価値の高いものまでもわいせつ罪にあたることになり、憲法の保障する表現の自由にも抵触する。

一方で侵害原理に基づき、「わいせつ物を望まない成人の性的感情ないし性的自己決定の自由」を保護法益とする見解も存在する。しかし、それは軽犯罪法の保護法益であり、公然わいせつ罪と同質に扱うのは妥当ではない。

左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者

軽犯罪法1条20号

そのため性秩序や侵害原理も保護法益として適切ではないため、両者の中間的な領域にこそ保護法益が求められるという見解もあるが、学術的な分野であるため、説明は割愛しよう。

専門的な話になってしまったが、公然わいせつ罪は保護法益を社会的利益としているため、被害者がいなくても成立するという事をご理解いただければと思う。

つまり、ハプバーの存在自体が社会の利益に反するため違法であり、被害者がいなくても、お店や客は処罰の対象になるということである。

もっとも、わいせつ罪(公然わいせつ罪、わいせつ罪物頒布等罪)については、上述のとおり保護の法益の内容が問題となるし、被害者がいるのかという問題もある。したがって、以下に引用するように法律の見直しが求められている領域でもあるのだ。

そもそも、これらの風俗犯に被害者はいるのかという問題もある(被害者なき犯罪)。したがって、刑事規制を行う場合には、保護法益の内容が特に問題となり、立法論としては、非犯罪化、非刑罰化すべきではないかという見解が常に主張されている(ポルノ解禁論)。

高橋則夫『刑事各論(第3版)』

私もこの意見に賛同するものである。トラブルなく管理されていれば、ハプバー営業による被害はいないし、法的な位置付けを明確にして、経営を鏡張りにしたほうが犯罪は防げるのではないかと考えられる。また法的な問題をクリアーにしたとしても、アングラ遊びとしての魅力は損なわれないように思うのだ。

しかし、繰り返しになるが、現行法制化では、いかなるハプニング・バーも違法である。

それでもハプバーを含めたアングラ遊びをしたいのであれば、法律的な知識の習得は必須であるように思う。私が知っている中でも、パーティやハプバーなどの遊びに精通している人の大半は、私が説明してきたような法律は当然のごとく熟知しているのである。

法律の知識とアングラの知識はワンセットであるし、そのような知識があるからこそ、柔軟な状況判断をすることができ、その余裕によって、異性を安心させることもできるのだ。

さて、ここのところ、おでん君はハプバー引退をほのめかすほど不調のようである。
おせっかいは承知であるが、ジャニーズカラオケもよいが、法律を勉強することで、女性を口説く余裕を身に着けるのもよいのではないかと思う。

【了】

【更新履歴】
2022/05/24公開
2022/09/10新サイト転載

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